京都府の行政を司る京都府庁、その庁舎は地下鉄烏丸線丸太町駅から北西に徒歩10分のところにあります。京都御所からもほど近く、まさに京都の要の位置です。
その敷地には、正門を入って左から議会棟、第一号館、正面奥に第二号館、右手奥に第三号館、右手手前に警察本部本館とぐるりを囲んで、中央には旧本館が鎮座しています。
この、旧本館は何とも美しい明治時代の建築。竣工から117年経った今でも現役で使用されている建物なのです。一見の価値がありますよ。
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京都府庁旧本館
文明開化は京都にも
この庁舎が建てられた、明治37年・1904年頃は、西洋に倣った政治・文化が華開いた時代です。西欧列強に淘汰されぬよう、日本が急速に文化の吸収、軍事的発展を進めていた時期ですね。日清戦争、日ロ戦争に勝利し、世相的にも好戦的な機運の中にありました。
戦争への気運は恐ろしく思います。
しかし、街燈がともり、路面電車が走り、洋装と和装が混在していた街の様子を想像するとわくわくします。モダンで浮足立った時代ですね。カフェーや電気ブランが流行っていたのでしょう。
ルネサンス様式の重厚な建築
京都府庁舎は明治37年(1904年)竣工。設計者は松室重光、施工は日本の大工・三上吉兵衛ら。松室重光という人物は、月読神社の神官の家柄の人だそうです。建築を学び、1897年、京都府技師に着任。古社寺の修復にも携わりました。
京都府庁舎はルネサンス様式という様式に則って建てられました。
ルネサンス様式とは
15~17世紀初頭に、イタリアを中心に広くヨーロッパに普及した建築・美術様式。古代ギリシャ・ローマ様式を復興させ、建築ではシンメトリー(左右対称)とバランス(調和)を重視した。大理石の床、円柱やアーチ、絵画や彫刻で飾った壁、コーニスを施した外壁などが特徴。家具も彫刻や象嵌などで豪華に飾られた。イタリアのフィレンツェ大聖堂、バチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂、フランスのルーブル宮(現ルーブル美術館)、シャンボール城などが代表例。
建物は煉瓦造り2階建て天然スレート葺き。天然スレートとは粘板岩でできた、防水性の高い素材。京都府庁では三陸沿岸地域の希少なものを使用しているそうです。
平面は中庭を持つロの字型、正面である南側部分の二階に知事室や正庁があり、背面の北側にも車寄せを設け、府議会議事堂が置かれています。庁舎と議事堂を一体化させる、ロの字型平面は兵庫県庁(1902年)に倣ったものです。
京都における様式建築
少し、京都における西洋風建築について、お話します。
明治時代、神戸や東京などには遅れましたが、京都でも西洋の建築が取り入れられるようになります。まずは、忠実に一定の手法を模倣する「様式建築」がメインだったと考えて良いようです。
京都で最初期に建てられた様式建築は、ミッション建築と博物館でした。建築家によって本格的に様式建築として建てられたものとして、平安女学院明治館や同志社クラーク館が有名です。博物館としては帝国京都博物館が挙げられます。これらは明治27年、28年(1894年、1895年)の建物。続いて、明治37年(1904年)京都府庁本館、明治39年(1906年)第一銀行京都支店など公的機関や銀行も、様式建築によって建てられていきました。
明治期には、バロック、ルネサンス、クイーン・アン様式といったそれぞれのスタイルに則った建築が建ち、次第に長楽館のように多様な様式を併せ持つ個性的な建築も見られるように。
大正期、昭和期には、和を取り入れたり、様々な様式・意匠を組み合わせる建築、モダンデザインの建築も造られるようになりますが、古典的な様式に則った三井銀行京都支店(大正3年1914年)、三菱銀行京都支店(大正14年1925年)、ヴォーリスによるチューダー様式の下村正太郎邸(昭和7年1932年)など、各様式に忠実な建築も多数建てられました。
館内 明治のお役所へタイムスリップ!?
正庁
さて、京都府庁舎に話を戻します。旧本館内へ入っていきましょう。
まずは、南側正面から、中へ。印象的な両袖階段が見えます。
中庭に面した大きな窓から、ふんだんに光が入ります。
石造りの手すり。大理石でしょうか。美しい彫りが施されています。
まっすぐに伸びる廊下。えんじ色のカーペットと、白い壁・天井、重厚な木製の扉。奥に見えるのが、建物の2階東南に位置する知事室です。
旧知事室
知事室の手前の、旧書記官室にスタッフの方がいます。来訪を告げると、旧食堂、知事室へ案内していただけます。
知事室の手前には、食堂。ちょっとした応接などに活躍したのでしょう。
暖炉の装飾にタイルが使われています。精巧ですね。
知事室に入ります。
重厚感あふれる室内。
知事室の暖炉は、ちょうど食堂の暖炉の裏側にあります。排気の効率も考えられています。暖炉は旧館に4つあり、それぞれ意匠がこらされています。
知事室に置かれた家具調度も、ヨーロッパの伝統的な形を採用したようです。飾り棚や本棚が、美しいですね。
さて、建物内を少し歩いてみます。
一回廊下。こちらは、使い込まれた雰囲気。
117年現役の庁舎である、ということを実感します。
中庭は、桜の時期にはぜひ来てみたいところです。今回は割愛。一度外に出て、旧議場へ向かいます。
旧議場
北側の入り口はこちら。南北共に、車寄せを設けています。
議場内へ入ります。
何とも豪奢で立派な議場です。京都のプライドを感じます。二階席からは、傍聴の人々が見下ろしたのでしょうね。
スタッフさんに、「劇場のようですね」と言うと、「そうです、マイクなどが無くても、このような天井ですと声が響きます。」と教えてくださいました。
扉一つとっても精巧な技術が使われています。左側に上部の通気窓を開閉するための金具が伸びています。蝶番は室内側についています。これは外部からの破損を受け辛くするため。
ドアノブには彫りが。鍵穴にも精巧な模様がつけられています。
窓や扉は、建築当時から残っているものと、破損などにより入れ替えたものとが混在しているようです。新しいドアのドアノブは、特に装飾などはされていません。
様式はヨーロッパに倣っていても、設計は、日本の(しかも月読神社の神主の家系の)松室重光。建てたのは日本の大工さん。当時の技術はすごかったようです。
窓が二重の部分は、建築時からのもの。しかし、割れたものは交換時に一重になってしまったそう。技術力が違ったのだと、スタッフの方が教えてくれました。
明治レトロな庁舎は結婚式会場にも!
117年現役の京都府庁旧本館。いかがでしたでしょうか。
旧議場には、古い写真の展示もあります。かつてこの議場で議会が開かれていたとき、府民が二階にずらっと並び、乗り出すようようにうに議事を聞いている写真も見られました。本来はこのように、自分たちの地域の運営は分かり安く公開の場でなされていたのだなあ、と感慨深く思います。現在も本議会の会議録はインターネットで公開されていますし、傍聴という制度もあるようです。しかし、なかなかその会議録を見に行こう、聞きに行こうとならないのですよね。自分たちの地域の事ですし、しっかり主体性を持つべきなのだなあ、とその写真を見て反省もしながら、見学しました。
117年、使われ続けている京都府庁旧本館。いかがでしたでしょうか。
こちらの、正庁・旧議場は、催し物や結婚式の会場として、有料で借りることもできるそうですよ。明治レトロな会場をお求めの方、相談されてみては?
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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